花園稲荷神社・忍岡稲荷編|Aグループ 近藤君とまゆみさん

花園稲荷神社、近藤君とまゆみさん AM長編(フィクション)
花園稲荷神社、近藤君とまゆみさん

第1話:朱の回廊と、新たな指令

オフィスの大型モニターに映し出された五條天神社の特集記事は、公開直後から社内でも上々の反響を呼んでいた。

「ふう、第1弾が無事に形になってよかったね、近藤くん」 まゆみがデスクでホッと息をつきながら、お茶を一口飲む。 「だな! まゆみさんの丁寧なメモと、佐久間先輩たちのフォローのおかげだよ。……さて、次はいよいよ第2弾だな」

近藤が気合を入れ直したその瞬間、オフィスの空気がピリリと引き締まるチャットの通知音が鳴り響いた。

『Aチーム、初陣の成果は上々だったぞ。読者からのエンゲージメントも高い。その勢いのまま、第2弾の取材へ進んでもらう』

壁際のモニターに、オーナーからの新しい指示が表示される。

『舞台は、五條天神社のすぐお隣に鎮座する「花園稲荷神社」だ。朱塗りの鳥居が連なる回廊と、崖下の洞窟にひっそり佇む謎の社「穴稲荷」……。その神秘的なコントラストと、縁結び・良縁の信仰の深さを、今度は少し慣れてきたコンビの目線で切り取ってこい』

「花園稲荷神社……! すぐお隣の、あの朱い鳥居がいっぱいあるところですね!」 まゆみが目を輝かせる。近藤もすぐにカメラバッグのファスナーを締め直した。

「よし、任せてくださいオーナー! 今度は鳥居の歪みも手ブレも完璧に抑えてみせます!」 「ふふ、気負いすぎないでね、近藤くん」

ふたりの頼もしい返答に、奥の席で見守っていたやよいと佐久間も温かい笑みを向ける。 チーフの蒼井がタブレットから顔を上げ、静かに頷いた。

「花園稲荷は、かつて『穴稲荷』と呼ばれて寛永寺の歴史とも深く結ばれている場所だ。表面的な朱色の美しさだけじゃなく、あの独特の厳かな空気感も感じてきてくれ」 「はい、チーフ!」

先輩たちに見送られ、近藤とまゆみは再び上野の杜へ向けてオフィスの扉を開けた。 初陣を終えたふたりの足取りには、確かな自信と新しい物語へのワクワク感が満ちていた。

第2話:朱のトンネルと、洞窟の隠れ家

JR上野駅の公園口から再び上野恩賜公園へ。緑豊かな木々を抜けて五條天神社の石段へと向かう手前、右手にパッと目を引く鮮やかな朱色の鳥居の列が現れる。

「わあ……やっぱりすごい。絵の具を塗ったみたいに鮮やかだね」 まゆみが立ち止まり、幾重にも連なる朱の回廊を見上げて感嘆の声を漏らした。

「うん。五條天神社の落ち着いた雰囲気とはまた全然違うな。お稲荷さんらしい、華やかさがある」 近藤は首から下げた一眼レフを構え、鳥居のトンネルが奥へ吸い込まれていくような奥行きのある構図でシャッターを切った。カシャリ、と乾いた心地よい音が響く。

ふたりは不忍池側の花園稲荷神社の鳥居をくぐり、鮮やかな朱色のトンネルをくぐり抜けて拝殿へと歩みを進めた。

「まずは、しっかりご挨拶しよっか」 まゆみに促され、ふたりは並んでお賽銭を入れ、二礼二拍手一礼。

参拝を終えたあと、ふと近藤が社務所のほうへ目をやり、それから境内の中ほどに視線を戻した。 「あ、まゆみさん、見て。不忍池側の鳥居から入って拝殿に向かう途中の右手、ちょうど参道の脇に、あそこから入れるみたいだよ」

近藤が指さした先には、拝殿へと向かう参道の右手に、ひっそりと佇む洞窟(岩屋)への入り口があった。 「本当だ……! あそこから中に入れるんだね」

ふたりは参道からそっと右手の入口へと足を踏み入れた。 外の明るい陽光から一歩中に入った瞬間、ひんやりと冷たい空気がふたりを包み込み、外界の音が嘘のようにスーッと消えていく。

「うわ……空気が全然違う」 さっきまでの朱色の回廊とは打って変わり、洞窟の中は長い年月が作り出した岩肌の陰影と、厳かな静寂に満ちていた。かつて「穴稲荷」や「忍岡稲荷」と呼ばれていたその場所は、まるで都会の真ん中であることを忘れさせるような、強い神秘性を放っている。

奥にひっそりと祀られた小さな社に灯るお供えの灯りが、暗がりの中でぼんやりと揺れていた。

「すごい……なんだか、時が止まってるみたい。縁結びや良縁の神様として知られてるけど、それだけじゃなくて、もっとこう……土地の強いパワーを感じる場所だね」 まゆみが両手を胸の前で軽く組み、静かに辺りを見回す。

近藤はフラッシュを焚かず、ISO感度を上げて洞窟内の神秘的な明暗を丁寧にフレームに収めた。 ファインダー越しに、青白い光と神社の赤、そして岩肌の陰影の中に佇むまゆみの横顔が綺麗に切り取られる。

「まゆみさん、こっち向いて」 「え?」

パシャリ、と静かなシャッター音が切られた。 少し驚いたように振り返ったまゆみの瞳に、洞窟の厳かな光が美しく反射している。

「……どう? うまく撮れた?」 ディスプレイを確認した近藤は、満足そうに頷いた。 「うん。すごく神秘的で、この場所の空気がそのまま写ってる。まゆみさんの表情も、すごくいい」 「もう、勝手に撮らないでよ……でも、ありがとう」

まゆみは少し照れくさそうにはにかみ、それからふっと柔らかく微笑んだ。 洞窟のひんやりとした空気が、ふたりの間の距離を心地よく縮めていくようだった。

「よし、そろそろ外に出よっか。地上に戻ったら、授与所も見てみよう」 「そうだね。可愛いお狐さんのおみくじもあるみたいだから、後で見に行こう!」

ふたりは歴史の重みと神秘的な余韻を胸に、洞窟を抜けて再び明るい陽光の中へと歩き出した。

第3話:帰還の報告と、オーナーのひと言

夕暮れの気配がほんのりと混じり始めた頃、近藤とまゆみは少し足取りを軽くしてオフィスの扉を開けた。

「ただいま戻りました!」
「お疲れさま。どうだった、花園稲荷の様子は?」

席で資料をまとめていたやよいが、コーヒーカップを置きながら温かく出迎えてくれる。
近藤はさっそく撮影した画像データをメインPCに取り込みながら、興奮気味に声を弾ませた。

「はい! 朱塗りの鳥居のトンネルもすごく綺麗だったんですけど、何より参道から入ったところにある『穴稲荷』の洞窟がすごかったです。外の喧騒が嘘みたいに静かで、歴史の重みっていうか……鳥肌が立ちました」
「ふふ、あの洞窟は一度入ると別世界に来たような感覚になるよね。レポートのまとめはできそう?」
「はい、まゆみさんが現地ですごく細かいメモを取ってくれたので完璧です!」

まゆみは照れくさそうに頬を緩めながら、手帳と取材メモを綺麗に整理してデスクの上に並べた。
「鳥居の数や、お隣の五條天神社との違い、それに縁結びや穴稲荷の神秘的な雰囲気についても文字に起こしました。今夜中に初稿を仕上げます」

その様子を奥の席から眺めていた佐久間が、頼もしい後輩たちの背中に満足そうな笑みを浮かべる。
「いいペースだな。最初の頃のガチガチだった緊張が嘘みたいに、いい目のつけどころで取材できてるじゃないか」

「ありがとうございます! 佐久間先輩たちに見習って、もっといい記事にします」
近藤が張り切って返事をした、その瞬間。

ピロン。

オフィスの壁際に設置されたモニターの隅で、オーナーからのチャット通知音が鳴り響いた。
チーム全員の視線が自然と画面に集中する。

『Aチーム、花園稲荷神社の取材ご苦労様だ。朱の回廊と穴稲荷のコントラスト、写真の構図も前回より格段に良くなっている。……ただ、近藤。洞窟の中で自分の相棒(まゆみ)ばかりファインダーで狙っていたようだが、気のせいか?』

「っ……!?」

近藤の顔が一気に真っ赤に染まる。隣でモニターを見たままゆみも、「えっ……?」と耳たぶまで朱色に染めて下を向いてしまった。

オフィスのあちこちから、佐久間の「プッ」と吹き出す笑い声や、やよいの「あらあら、青春ねぇ」という優しい冷やかしの声が漏れる。
さらにオーナーからの追撃のメッセージが光った。

『まあ、チームの絆が深まるのは良いことだ。お疲れの褒美に、オフィスの冷蔵庫に冷えている和菓子を皆で分けるといい。次回は、この取材データをどう料理するか、Bチームへバトンタッチだ。しっかり頼むぞ』

「は、はい! ありがとうございました……!」
頭を抱えたくなるほど恥ずかしがる近藤と、真っ赤な顔でデスクの書類に目を伏せるまゆみ。
そんな初々しいふたりの姿を微笑ましく見守りながら、オフィスの空気は心地よい温かさに包まれていた。

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