東京福めぐり(高輪神社編)『江戸の残り香、未来のノート』Short_Story

高輪神社、鳥居前、佐久間とやよい 短編(フィクション)
高輪神社、鳥居前、佐久間とやよい

【特別短編:高輪神社編】『高台の静謐と石工の魂、冷たい風に誓う『揺るぎない土台』の福』

[1. 国道十五号の喧騒を抜けて——石段の先に広がる静謐]

まだ冬の鋭い寒さが残る二月の日曜日。朝の澄み切った青空から降り注ぐ陽光が、第一京浜(国道15号)を行き交う車のフロントガラスに反射して銀色に煌めいていた。 泉岳寺駅からすぐの国道沿いに構える鳥居をくぐり、参道の石段を一段ずつ踏みしめて高台の境内へと上がる。敷石へ足を踏み入れた瞬間、背後の車の走行音がふっと遠のき、凛とした静寂が二人を包み込んだ。

「はぁ……っ! 佐久間君、見てちょうだい! 第一京浜の鳥居をくぐって石段を上がっただけなのに、車の音がすっと消えて、まるで別世界のような静けさね! 二月の凛とした澄んだ空気と相まって、心が洗われるようだわ!」

濃紺の冬着物に温かな道行コートを合わせたヤヨイが、丸眼鏡の位置を直しながら取材ノートを抱きしめて目を丸くする。 木々模様のシックな冬ジャケット姿の佐久間が、いつものように自然な動作でヤヨイのカメラバッグを片肩へ背負い直し、力強く左腕を差し出した。

「室町時代の明応年間に創建された古社です。かつてはこの高台の眼下に品川の海が広がり、東海道を行き交う旅人や江戸の玄関口である高輪大木戸を見守る要衝でした。大通りのすぐ脇にありながら、この高台の地形が神域の深い静謐を守っているのですよ」

[2. 境内の『太子堂』と、大火を越えた江戸石工の魂]

拝殿で手を合わせた二人は、境内の一角に厳かに佇む境内社『太子堂(太子宮)』の前へ。 周囲を囲む文政年間の石門や石塀には、江戸の職人たちが彫り上げた龍や波の力強い浮き彫り彫刻が刻まれていた。

「まぁ……! 神社様の境内に聖徳太子様をお祀りする太子堂があるのね! それに見て、この石門や石塀の細工……江戸時代の職人さんたちの息づかいが伝わってくるような、なんて緻密で力強い彫刻なのかしら!」

「聖徳太子は建築・土木・工匠の祖神として仰がれていたため、江戸の石工組合や大工講によって熱烈に信仰されました。青山の大火で社殿が焼失した際も、この精緻な石造物だけは焼け残り、職人たちの誇りと技術を何百年も伝えているのです」

[3. 二月の木漏れ日と、手渡された『揺るぎない土台』の誓い]

冬の淡い木漏れ日が揺れる境内の木陰へ。冷たい風にヤヨイが首元のショールをきゅっと押さえたとき、佐久間はコートのポケットから授与所で拝受したお守りを取り出した。

佐久間はそのお守りをヤヨイの細い手のひらに乗せると、冷えた彼女の指先ごと自身の大きな手でガチッと力強く包み込んだ。

「あ……佐久間君……っ?」

「ヤヨイさん。何百年もの風雨や大火に耐えて今も立ち続けるあの石門のように……僕があなたの言葉と表現を、何があっても揺るがない強固な土台となって支え続けます。聖徳太子が説いた『和』の調和と職人魂を胸に、あなたの紡ぐ文章を僕が最高のプロデュースで世界へ咲かせ続けます。……僕の人生の主役は、一生ヤヨイさん、あなただけです」

「……っ、もう! 二月の澄んだ空気の中で、そんな真っ直ぐで男前な瞳で見つめながら『揺るぎない土台になる』なんて言ってくれるなんて……っ。胸が熱くなって、丸眼鏡が嬉しさで曇っちゃうじゃない。……あなたという揺るぎない支えがいてくれるなら、私、どんな時代だって自信を持って言葉を紡いでいけるわ!」

[4. 泉岳寺の門前と、ブルーボトルコーヒーで紡ぐ未来]

参拝を終えた二人は、赤穂四十七士が眠る名刹『泉岳寺』の厳かな門前を眺めながら歩みを進め、高輪ゲートウェイ駅直結のNEWoMan高輪にある『ブルーボトルコーヒー』へ。 香り高いハンドドリップコーヒーと温かいワッフルを味わいながら、佐久間が手帳を開く。

「泉岳寺の単独特集企画も楽しみにしつつ……さてヤヨイさん、東京福めぐり全八社のうち六社を巡りました。次回・第7話の舞台は、品川区に鎮座する【戸越八幡神社】です」

「戸越八幡神社様……! 戸越銀座商店街の風情と、八幡様の温かい福を味わえるのが今から楽しみね! 次の取材も、絶対に私の隣から離れないでね、佐久間君!」

「もちろんです。一生、あなたの隣で伴走し続けます」

洗練されたカフェに広がる珈琲の香りと、二人の穏やかな笑顔。 高輪神社の石門が伝えた揺るぎない職人の魂に見守られた二人の絆は、第7話『戸越八幡神社』への期待を胸に、どこまでも深く、そして甘く未来へと続いていくのだった。

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