東京福めぐり(波除神社編)『江戸の残り香、未来のノート』Short_Story

波除神社、獅子殿、佐久間とやよい 短編(フィクション)
波除神社、獅子殿、佐久間とやよい

【特別短編:波除神社編】『熱狂のつきじ獅子祭と、波乗守に誓う『大丈夫』の福』

[1. 築地を揺るがす大歓声と、巨大獅子頭の渡御]

六月上旬、初夏の陽射しがアスファルトを焦がす築地。 波除神社の周辺は、揃いの半纏をまとった担ぎ手たちの野太い掛け声と、地鳴りのような太鼓の音で熱狂の渦に包まれていた。

「セイヤ! セイヤ!」

「はぁ……っ! 佐久間君、見てちょうだい! 樹齢三百年の一木造りの大獅子様が、人の波の上を泳ぐように進んでいくわ……っ! 街全体が祭り一色に染まって、空気が震えているみたい!」

涼やかな水色の夏着物に薄羽織を合わせたヤヨイが、丸眼鏡を指で直しながら、熱気あふれる通りを見つめて目を丸くする。 担ぎ手と観光客が入り乱れる激しい人波の衝撃からヤヨイを護るよう、木々模様のジャケット姿の佐久間がすっと背後に回り込み、彼女のカメラバッグを抱え直した。

「ええ。重さ一トンの厄除天井獅子と、紅ガラ塗りのお歯黒獅子が築地の街を練り歩く『つきじ獅子祭』です。海を鎮め、災難を呑み込んできた獅子の気魄が、街中に満ちあふれていますね」

佐久間は力強い左腕を差し出し、押し寄せる人波からヤヨイを包み込むように引き寄せた。

[2. 本殿の祈りと、手渡された『波乗守』]

獅子頭の宮出を見届けた二人は、祭りの神気が立ち込める波除神社の境内へ。 本殿で手を合わせ、獅子殿の厄除天井獅子へ「願い串」を納めた後、二人は木漏れ日が揺れる境内の片隅へと身を寄せた。

「激しいお祭りの中で手を合わせると、神様が本当に厄災をすべて吹き飛ばしてくださるような、すごい力強さを感じるわね」

「ええ。そしてヤヨイさん、この熱気の中であなたにお渡ししたいものがあります」

佐久間は授与所で拝受していた、荒波を越える勇壮な意匠が施された『波乗守(なみのりまもり)』を取り出した。 佐久間はそのお守りをヤヨイの小さな手のひらにそっと乗せると、そのまま彼女の指先ごと、自身の大きな手でガチッと力強く包み込んだ。

「あ……佐久間君……っ?」

「つきじの獅子が荒波を鎮め、祭りの熱気で厄を祓うように……これから僕たちが歩む未来にどんな人生の荒波が来ようとも、僕がすべてを鎮めるあなたの『波除け』になります。そしてこの波乗守のように、僕が隣にいれば、あなたは最高の波に乗ってどこまでも高く羽ばたけます。……僕の人生の主役は、一生ヤヨイさん、あなただけです」

「……っ、もう! 祭りの熱気が立ち込める境内で、そんな真っ直ぐで男前な瞳で見つめながら『波乗り』を約束してくれるなんて……っ。胸が熱くなって、丸眼鏡が嬉しさで曇っちゃうじゃない。……あなたという無敵の波除けがいてくれるなら、私、どんな大波だって笑顔で乗り越えていけるわ!」

[3. 祭りのあとの玉子焼きと、未来への誓い]

熱狂の境内を後にした二人は、場外市場の店先で湯気を立てる焼きたての「串刺し玉子焼き」を手に取った。 出汁の甘みと熱々の湯気が、お祭りで高揚した身体にじんわりと染み渡っていく。

「ん〜っ! 焼きたてフワフワの玉子焼き、甘くて最高に美味しいわね、佐久間君!」

「ええ。熱狂のあとにいただく築地の味は格別です。……ヤヨイさん、次の福めぐりも、最高の波に乗って進みましょう」

「もちろんよ! あなたの手を絶対に離さないわ!」

築地の空に響き渡る祭りの太鼓と、潮風に乗って届く歓声。 つきじ獅子祭の圧倒的な気魄と『波乗守』の誓いに守られた二人の絆は、新しい『東京福めぐり』の旅路で、どこまでも熱く、そして永遠に結ばれていくのだった。

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