東京福めぐり(烏森神社編)『江戸の残り香、未来のノート』Short_Story

烏森神社、参道、佐久間とやよい 短編(フィクション)
烏森神社、参道、佐久間とやよい

【特別短編:烏森神社編】『新橋を揺らす五月例大祭と、技芸上達に誓う『生涯の伴走』』

[1. 新橋の路地を埋め尽くす半纏と、宮神輿の地鳴り]

五月中旬の初夏。眩しい陽射しがビル群のガラスに照り返す新橋の街は、普段のオフィス街の表情を一変させていた。 烏森神社の周辺路地には、揃いの半纏を粋にまとった担ぎ手たちがひしめき合い、威勢の良い掛け声と太鼓の重低音が路地裏のビル壁に反響している。

「ソイヤ! セイヤ!」

「はぁ……っ! 佐久間君、見てちょうだい! 飲食店が立ち並ぶあの細い路地を、黄金色に輝くお神輿が人波をかき分けて進んでいくわ……っ! 普段のビジネス街が嘘みたいに、江戸の粋と熱気で街全体が沸き立っているわね!」

爽やかな萌黄色の夏着物に薄羽織を合わせたヤヨイが、丸眼鏡の位置を直しながら目を丸くして歓声をあげる。 担ぎ手と観客が入り乱れる激しい熱気の中、木々模様のジャケット姿の佐久間がすっとヤヨイの背後に回り込み、肩に掛けたカメラバッグを抱え直しながら力強い左腕で彼女を人波からスマートにガードした。

「ええ。五月に行われる烏森神社の例大祭です。かつて藤原秀郷公が平将門の乱を平定した際、戦勝を祝って始まったとされる由緒ある大祭ですよ。新橋の路地裏を練り歩く宮神輿の迫力は、まさにこの街の底力そのものです」

佐久間のたくましい腕にそっと身を寄せたヤヨイは、熱狂に包まれる新橋のパッションを取材ノートへ書き留めるべく、ペンを走らせた。

[2. 例大祭限定の神気と、手渡された『技芸上達守』]

宮神輿の渡御を見届けた二人は、祭りの清々しい神気が満ちる烏森神社の境内へ。 コンクリート打ち放しのモダンな社殿前で手を合わせ、例大祭の特別祈願を捧げた後、二人は色とりどりの提灯が揺れる境内の木陰へと足を止めた。

「例大祭の熱気の中で手を合わせると、芸能の神様である天鈿女命様のパワーが、身体の奥深くまで直接届いてくるような気がするわね」

「ええ。そしてヤヨイさん、この熱気あふれる祭りの日に、どうしてもあなたにお渡ししたいものがあります」

佐久間は授与所で拝受していた、天鈿女命の神徳が込められた『技芸上達守』を取り出した。 佐久間はそのお守りをヤヨイの細い手のひらにそっと乗せると、そのまま彼女の指先ごと、自身の大きな手でガチッと力強く包み込んだ。

「あ……佐久間君……っ?」

「天鈿女命が神楽を舞って神々の心を動かしたように……あなたの言葉には、読む人の心を揺さぶり、明るい光を灯す唯一無二の力があります。どんなに時代が移り変わろうと、あなたの才能と情熱を誰よりも信じ、最高の舞台へと導くプロデューサーとして、僕は一生あなたの隣で伴走し続けます。……僕の人生の主役は、一生ヤヨイさん、あなただけです」

「……っ、もう! 例大祭の熱気が立ち込める境内で、そんな真っ直ぐで男前な瞳で見つめながら『生涯の伴走』を約束してくれるなんて……っ。胸が熱くなって、丸眼鏡が嬉しさで曇っちゃうじゃない。……あなたという最高のプロデューサーが隣にいてくれるなら、私、どんな大舞台だって自信を持って最高の言葉を届けてみせるわ!」

[3. 新橋レトロ喫茶のアイスコーヒーと、未来へのステップ]

祭りの熱狂と誓いの余韻に包まれながら境内を後にした二人は、新橋の路地裏にある老舗レトロ喫茶へ。 カランと心地よい音を立てる水出しアイスコーヒーを口に含み、火照った身体を心地よく冷ます。

「ん〜っ! お祭りの熱気のあとにいただく、キリッと冷えたアイスコーヒー……最高に染み渡るわね、佐久間君!」

「ええ。五月の風と新橋の熱気を味わったあとの一杯は格別です。……さあヤヨイさん、烏森神社の技芸上達の福を胸に、僕たちの『東京福めぐり』のノートをさらに鮮やかに紡いでいきましょう」

「もちろんよ! あなたの手を絶対に離さないわ!」

新橋の街に遠く響く神輿の掛け声と、初夏の爽やかな風。 五月例大祭の圧倒的な気魄と『技芸上達守』の誓いに守られた二人の絆は、新しい『東京福めぐり』の旅路で、どこまでも色鮮やかに、そして永遠に結ばれていくのだった。

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