第5話:烏森神社(新橋の路地に灯る芸能の神と、心願色みくじに誓う『技芸上達』の福)
第一章:新橋の路地裏に佇むモダンな社殿と、白狐が授けた白羽の矢
九月初旬。行き交うビジネスパーソンと観光客で活気に満ちた新橋駅の烏森口。
飲食店や居酒屋の看板がひしめく風情ある路地を少し入ると、コンクリート打ち放しの末広がりな「ハの字型」の鳥居と、近代的で洗練された社殿が突如として姿を現す。『チームケロ』のプロデューサー・佐久間学とライター・ヤヨイの二人は、その独特の造形美をたたえる烏森神社の鳥居前に立っていた。
「はぁ……っ! 佐久間君、見てちょうだい! 新橋の賑やかな飲み屋街の路地奥に、こんなにもスタイリッシュで美しい神社様が鎮座しているなんて……! 十数回お参りに来ている大好きな神社様だけれど、訪れるたびにこの都会的な空気感と、女性参拝客の明るい笑顔に心がパッと華やぐわね!」
薄萌黄(うすもえぎ)色の単衣着物に、秋草模様の繊細な羽織を合わせたヤヨイが、丸眼鏡の位置を直しながら愛用の取材ノートを抱きしめて声を弾ませた。
木々模様のジャケットを着こなした佐久間は、いつものように自然な動作でヤヨイの重い一眼レフカメラのバッグと巾着をサッと片肩へ背負い直す。
「ええ。烏森神社は、新橋という近代的なオフィス街にありながら、千年以上もこの街を見守り続けてきた古社です。天慶三年(940年)、平将門の乱(天慶の乱)を鎮圧するために武蔵国へ向かった藤原秀郷公が、稲荷大神に戦勝を祈願した際、一匹の白狐が現れて『白羽の矢』を授けました。秀郷公は見事乱を平定し、感謝の社を建てる場所を夢で探したところ、烏の群がる森――すなわち『烏森』の地に導かれたのが創建の始まりです」
「白狐様が授けた白羽の矢と、烏が群がる森のお告げ……! 新橋の『烏森口』という地名そのものの起源が、この神社様にあるのね! 都会の喧騒の中に息づく歴史のロマンに、丸眼鏡の奥が震えちゃうわ!」
「そしてヤヨイさん、この神社が女性や表現者たちから絶大な人気を集めている最大の理由は、お祀りされている神様にあります。主祭神の倉稲魂命に加え、天岩戸開きで神楽を舞い、天照大御神を誘い出した日本最古の芸能の神『天鈿女命(アメノウズメノミコト)』がお祀りされているのです」
「芸能と舞の神様、天鈿女命様……! 表現者や言葉を紡ぐ者にとって、これ以上ない尊い守り神ね!」
佐久間は優しく目を細めると、力強い左腕を差し出した。ヤヨイはその腕に甘えるようにしっかりと手を重ね、モダンな鳥居をくぐったのだった。
第二章:四色の『心願色みくじ』と、緑の願い札に込めた祈り
境内へ足を踏み入れると、烏をモチーフにした愛らしい神社公式マスコットキャラクター『こい吉』のイラストが二人を明るく出迎えた。
二人は拝殿前で深く頭を下げ、二拝二拍手一拝の丁寧な祈りを捧げる。参拝を終えた後、多くの女性参拝客で賑わう授与所へ向かった。
烏森神社の名物といえば、全国的なカラフル御朱印ブームの火付け役ともなった『心願色みくじ』である。
「赤は良縁・恋愛、黄は金運・商売繁昌、青は厄除・健康、そして緑は学業・技芸上達……! 四色それぞれにお守りと専用の願い札、願い石がセットになっているなんて、なんて愛らしくて心躍るおみくじなのかしら!」
「ヤヨイさん、あなたの祈るべき色は一つしかありませんね」
佐久間は迷うことなく、鮮やかな「緑色」の心願色みくじを授与された。
緑の封筒を開き、おみくじの言葉を読んだヤヨイは、同封されていた専用ペンを手に取り、小さな木製の願い札へと向かい合う。
「佐久間君、私……これからも読んでくださる方の心に光を届けるような、温かくて力強い言葉を紡ぎ続けたいわ」
「ええ。その純粋な祈りを、そのまま願い札に書き込んでください」
ヤヨイは真剣な眼差しで、『心に届く真実の言葉を紡ぎ続けられますように』と筆を走らせた。
二人は境内に設けられた「心願色みくじ結び処」へと進み、緑色の願い札を丁寧に結び合わせた。参拝後には、四色の巴紋と『こい吉』が鮮やかに描かれた、秋の限定透かし和紙御朱印を拝受した。
「四色の巴紋とこい吉様があしらわれた美しい御朱印……! 見ているだけで心がパッと明るくなって、福が満ちてくるようだわ」
第三章:手渡された『技芸上達守』と『癌封じ守』——生涯のプロデュース宣言
参拝を終えた二人は、鳥居脇の木漏れ日が揺れるベンチへ。
佐久間はバッグの中から、大切に手配していた二つのお守りを取り出した。天鈿女命の神徳を宿す『技芸上達守』と、都内でも非常に珍しい『癌封じ守』である。
佐久間はまず『技芸上達守』をヤヨイの細く華奢な手のひらにそっと乗せると、そのまま彼女の指先ごと、自身の大きな手でガチッと力強く包み込んだ。
「あ……佐久間君……っ?」
「ヤヨイさん。かつて天鈿女命がその神楽の舞で神々の心を動かし、閉ざされた天岩戸を開いたように……あなたの紡ぐ言葉には、人々の頑なな心を解きほぐし、未来を照らす本物の才能が宿っています。あなたの言葉の力は、僕が一番よく知っています」
佐久間はさらに、もう一つの『癌封じ守』に視線を落とし、真摯な光を宿した瞳でヤヨイを真っ直ぐに見つめた。
「そして……表現者として言葉を紡ぎ続けるためには、何よりもあなたの健康と無事息災が不可欠です。この癌封じ守のように、あなたの身体も、心も、これからの未来も、僕が命懸けで守り抜きます。僕が最高のプロデューサーとして、あなたの才能を一生世界へ咲かせ続けます。……僕の人生の主役は、一生ヤヨイさん、あなただけです」
「……っ、もう! 新橋の爽やかな秋風の中で、そんな真っ直ぐで男前な瞳で見つめながら才能と健康を守る約束をしてくれるなんて……っ。どこまでもズルいのよ。胸が熱くなって、丸眼鏡が嬉しさで曇っちゃうじゃない」
ヤヨイは潤んだ瞳を細め、佐久間の大きな手を両手でギュッと握り返した。
「あなたという無敵のプロデューサーが隣で道を開いてくれるなら、私、どんな新しい物語だって自信を持って紡いでいけるわ!」
第四章:新橋のレトロモダンカフェと、第6話『高輪神社』への予告
取材と参拝を終えた二人は、新橋駅近くの落ち着いたレトロモダンな有名喫茶店へと足を運んだ。
アンティーク調のランプが温かい光を落とすテーブル席で、運ばれてきた香り高いネルドリップブレンドと、クラシックなカスタードプリンをいただく。
「はぁ〜っ……! 濃いめのブレンドコーヒーと、ほろ苦いカラメルが絡む固めプリン……! 烏森神社様でお参りしたあとのカフェタイム、最高に落ち着くわね、佐久間君」
「ええ。歩き回ったあとの珈琲の香りは、思考をクリアにしてくれますね」
佐久間は一口コーヒーを口に含むと、手帳を開き、穏やかな笑みを浮かべた。
「さて、ヤヨイさん。浅草神社、鳥越神社、福徳神社、波除神社、そして今日の烏森神社と巡り、僕たちの『東京福めぐり』もいよいよ後半戦へと突入します」
「ええ! 次は都営浅草線に乗って、どこへ向かうのかしら?」
「第6話の舞台は……港区高輪に鎮座する【高輪神社(たかなわじんじゃ)】です」
「高輪神社様……! 泉岳寺駅の近くにある、高台の歴史ある神社様ね!」
「そうです。室町時代、太田道灌公の時代からの歴史を誇り、徳川将軍家や赤穂浪士ゆかりの地としても名高い格式あるお社です。都会の喧騒から隔絶された静謐な境内で、次回はどのような福と歴史の物語が芽吹くのか……僕たちの旅ノートをさらに深めていきましょう」
「高輪の歴史と赤穂義士の風情……! 想像するだけで、また丸眼鏡の奥がワクワクしてきちゃうわ! 次の『高輪神社』の取材も、絶対に私の隣から離れないでね、佐久間君!」
「もちろんです。一生、あなたの隣でエスコートし続けます」
新橋のカフェに流れる穏やかなジャズの調べと、温かい珈琲の湯気。
天鈿女命の技芸上達の加護と心願色みくじの緑の祈りに守られた二人の絆は、後半戦となる『高輪神社』への期待を胸に、どこまでも甘く、そして力強く未来へと歩みを進めていくのだった。

