第7話:戸越八幡神社(広き杜の参道と福分け猿・夢叶うさぎ、戸越銀座のぬくもりで結ぶ福)
第一章:初秋の木漏れ日と、まっすぐに伸びる杜の参道
九月中旬。朝夕の風に秋の気配が混じり始めた品川・戸越の街。 都営浅草線の戸越駅を降りて地上へ出ると、どこか懐かしい下町の空気が肌を撫でた。『チームケロ』のプロデューサー・佐久間学とライター・ヤヨイの二人は、住宅街の穏やかな小道を抜け、緑豊かな木々に包まれた戸越八幡神社の鳥居前に立っていた。
「はぁ……っ! 佐久間君、見てちょうだい! 鳥居をくぐった先、拝殿までまっすぐに伸びるこの清々しい参道……! 浅草や新橋のビル街に佇む神社様とはまた違って、敷地が本当に広々としていて、木々の緑が深くて……足を踏み入れるだけで心がすーっとほどけていくようね!」
撫子(なでしこ)色の単衣着物に、秋草をあしらった透け感のある羽織を合わせたヤヨイが、丸眼鏡の位置を指先で直しながら、愛用の取材ノートを抱きしめて声を弾ませた。 木々模様のシックなジャケット姿の佐久間は、いつものように自然な動作でヤヨイの重いカメラバッグと巾着をサッと片肩へ背負い直す。
「ええ。都心部にありながら、この豊かな社叢と開放感を保ち続けているのは素晴らしいですね。……ヤヨイさん、この場所には『戸越』という地名の発祥となった深い歴史が眠っているのですよ」
佐久間は参道脇の大きな欅を見上げ、穏やかな低音で語り始めた。
「大永六年(1526年)、行永法師という諸国を行脚していた僧がこの地を訪れた際、藪の中の澄んだ清水から光り輝く御神体を見つけ出し、草庵に祀ったのがこの八幡神社の始まりです。かつて人々はこの地を越えて江戸の街へ入ったことから、『江戸越えの村』と呼ばれ、それが転じて『戸越』という地名になりました。旅人の安全と地域の暮らしを五百年も見守り続けてきた、懐の深い八幡様です」
「清水から現れた八幡様と、『江戸越え』から生まれた戸越の地名……! 旅人が江戸を目指して歩いた歴史の足音が、このまっすぐな参道に重なっているのね!」
佐久間は満足そうに微笑むと、力強い左腕を差し出した。ヤヨイはその腕に甘えるようにしっかりと手を重ね、木漏れ日が揺れる敷石を踏みしめて歩き出したのだった。
第二章:愛らしき『福分け猿』と『夢叶うさぎ』、端正な通常御朱印
二人は清涼な空気が満ちる拝殿の前へ進み、二拝二拍手一拝の丁寧な祈りを捧げた。 主祭神である誉田別命(八幡大神)に手を合わせ、日々の感謝とこれからの旅路の無事を祈る。参拝を終えたヤヨイの視線は、参道脇にちょこんと佇む愛らしい二つの石像に引き寄せられた。
「あら……! 佐久間君、あちらを見て! なんて可愛らしいお猿様とうさぎ様の像なのかしら!」
「あれは境内の名物である『福分け猿』と『夢叶うさぎ』です。お猿様は自らの福を参拝者に分け与え、あらゆる厄災を『去る(猿)』として祓ってくださる福の神。そしてうさぎ様は、ぴょんと高く跳躍して願い事を成就させ、良縁を結んでくださる神仏のお使いです」
「まあっ! 福を分け与えて厄を去らせてくれるお猿様と、夢を叶えて跳躍させてくれるうさぎ様……! 見ているだけで表情がほころんで、心がじんわり温かくなっちゃうわね!」
ヤヨイは愛おしそうに石像の頭をそっと撫で、その温かな造形を取材ノートへスケッチした。 続いて二人は授与所へ。窓口には四季折々の花や神事、うさぎやお猿が描かれた色鮮やかな季節限定御朱印がずらりと並んでいた。
「わあ……! 季節限定の御朱印も華やかで本当に素敵ね。どれをいただこうか迷ってしまうわ」
「ええ。ですがヤヨイさん、今日僕たちがいただくのは、あえて墨書と八幡宮の朱印が凛と引き立つ『通常の御朱印』にしませんか。五百年の歴史をそのまま写し取ったような、飾らない本物の格式と誠実さが一番伝わってきますから」
「ふふっ、さすが佐久間君! 私も同じことを考えていたわ。シンプルだからこそ、この杜の清々しさが真っ直ぐ心に残るものね」
ヤヨイは嬉しそうに頷き、丁寧に墨書された端正な通常御朱印を御朱印帳へと納めたのだった。
第三章:杜の木陰の誓い——『福分け・夢叶守』と一生のプロデュース
参拝を終えた二人は、境内に置かれた心地よいベンチへ。 欅の葉が秋風にさらさらと擦れ合う中、佐久間はジャケットの内ポケットから、授与所で大切に拝受していた『福分け・夢叶守』を取り出した。
佐久間はその愛らしいお守りをヤヨイの細く華奢な手のひらにそっと乗せると、そのまま彼女の指先ごと、自身の大きな手でガチッと力強く包み込んだ。
「あ……佐久間君……っ?」
佐久間の大きな手から伝わる確かな温もりと力強さが、ヤヨイの手先から胸の奥へとじんわりと広がっていく。
「ヤヨイさん。福分け猿が福を分け合い、夢叶うさぎが願いを跳躍させるように……これから僕たちが紡いでいく未来の喜びも、仕事の成功も、日常のささやかな幸せも、すべてあなたと半分ずつ分かち合っていきたい。あなたの言葉の夢は、僕自身の夢です。あなたが紡ぎたいと願う物語のすべてを、僕が最高のプロデュースで叶えてみせます」
佐久間は真摯な光を宿した瞳で、ヤヨイを真っ直ぐに見つめた。
「僕の人生の主役は、一生ヤヨイさん、あなただけです。僕の隣で、ずっと最高の夢を一緒に叶えていってください」
「……っ、もう! この広々とした杜の木漏れ日の中で、そんな真っ直ぐで男前な瞳で見つめながら『福を分かち合おう』なんて言ってくれるなんて……っ。どこまでもズルいのよ。胸が熱くなって、丸眼鏡が嬉しさで曇っちゃうじゃない」
ヤヨイは潤んだ瞳を細め、佐久間の大きな手を両手でギュッと握り返した。
「あなたという最高のプロデューサーが隣にいてくれるなら、私、どんな大きな夢だって一緒に叶えていけるわ!」
第四章:戸越銀座商店街の食べ歩きと、最終話『蛇窪神社』への予告
境内を出た二人は、神社に隣接する関東有数の長さを誇る『戸越銀座商店街』へと歩みを進めた。 全長約一・三キロメートルにわたって約四百もの店舗が軒を連ねる通りは、地元の人々の買い物袋と、観光客の明るい笑顔で活気に満ちあふれていた。
「わあ……っ! 参道の静けさから一歩出ると、こんなにも賑やかで美味しそうな匂いが漂う商店街が広がっているのね! 佐久間君、あのお店、湯気が上がっているわ!」
「ええ。戸越銀座といえば、名物のコロッケと下町グルメの宝庫です。さあヤヨイさん、お参りのあとは美味しいものをたくさん食べ歩きしましょう」
二人はまず、行列のできる老舗精肉店へ。 揚げたてアツアツの「戸越銀座コロッケ」を手に取り、ふーふーと息を吹きかけながら頬張る。
「んん〜っ! 衣がサクサクで、中のジャガイモがホクホク甘くて最高に美味しいわ! ほら佐久間君、半分食べてみて!」
「いただきます。……美味いな。出汁と肉の旨味がしっかり染みている」
続いて、香ばしい匂いに誘われて焼きたてのたい焼き屋へ。薄皮のパリッとした生地に包まれた熱々の粒あんを分け合い、さらに湯気立つ串焼きや点心を一口ずつ味わいながら、二人は賑やかな商店街をのんびりと歩いた。
「美味しいものを佐久間君と半分こしながら歩く下町散歩……なんて幸せな時間なのかしら」
「ええ。福徳神社や高輪神社のような都会的な洗練も素晴らしいですが、この戸越の温かい下町の空気は、心を一番豊かにしてくれますね」
佐久間は歩道の端へヤヨイを優しく引き寄せながら、手帳を開いて穏やかに微笑んだ。
「さて、ヤヨイさん。浅草神社から始まった僕たちの『東京福めぐり』も、この戸越八幡神社で七社を巡り終えました。いよいよ……次が最後の結びの一社です」
「ええ……! ついに全八社の大願成就、最終話ね! 最後の第8話は、どこへ向かうのかしら?」
「栄えある最終話の舞台は……同じく品川区、中延・下神明の地に鎮座する【蛇窪神社(上神明天祖神社)】です」
「蛇窪神社様……! 白蛇様と蛇窪龍神様がお祀りされている、巳の日や巳年会でも有名な超人気のパワースポットね!」
「そうです。白蛇様による清浄と金運、龍神様による大願成就の御神徳が宿る聖地です。僕たちの東京福めぐりノートの集大成として、これ以上ない最高のフィナーレになるはずです。最後の一社まで、最高の福を巡り尽くしましょう」
「白蛇様と龍神様の奇跡の福……! 最後の最後まで、絶対に私の隣でエスコートしてね、佐久間君!」
「もちろんです。一生、あなたの隣で伴走し続けます」
夕暮れの戸越銀座に灯り始めた赤提灯と、行き交う人々の温かな笑い声。 戸越八幡神社の福分けの心と夢叶うさぎの跳躍に見守られた二人の絆は、いよいよ迎える最終話『蛇窪神社』への期待を胸に、どこまでも甘く、そして力強く未来へと歩みを進めていくのだった。

