東京十社群像譚(亀戸天神社編)『江戸の残り香、未来のノート』番外編

神田明神、お茶の水銀杏並木、佐久間とやよい 長編(フィクション)
神田明神、お茶の水銀杏並木、佐久間とやよい

【特別編:神田神社編】『ジンジャーエールと甘酒の湯気、冬の神域で重ねる温もり』

1. EDOCCO CAFÉ MASUMASUでの「神社声援(ジンジャーエール)

十二月の澄み切った冬空のもと、神田神社(神田明神)の表鬼門を守る参拝と取材を終えた佐久間とヤヨイ。 冬の凛とした冷気が神域を包み込むなか、二人は暖を求めて境内にある文化交流館「EDOCCO」内のカフェ『EDOCCO CAFÉ MASUMASU(江戸っ子 カフェ マスマス)』へと駆け込んだ。

「はぁ〜っ……! 木の温もりがあたたかくて、生き返る心地だわ……っ。佐久間君、見てちょうだい! このメニューのネーミング……『神社声援』と書いて『ジンジャーエール』って読むのね! なんて粋でありがたいネーミングなのかしら!」

白地に朝顔模様の着物に、厚手のエンジ色の羽織を羽織ったヤヨイが、丸眼鏡を少し直しながらメニューを指さして目を輝かせた。 佐久間は優しく目を細めると、注文カウンターから『神社声援(縁結びセット)』を受け取ってテーブルへと戻ってきた。

「ヤヨイさん、お待たせしました。『神社声援(ジンジャーエール)』と、愛らしい『ましゅまろ』の縁結びセットです。神社でいただくジンジャーエールは、神様からの“声援(御加護)”が詰まった特別な飲み物ですから」

「ふふ、『神社声援』だなんて、飲んでいるだけで神様と佐久間君に背中を力強く押してもらえている気分になるわね……っ! すりおろし生姜のピリッとした辛味と蜂蜜の甘さが喉を通って、身体の芯からぽかぽか温まっていくわ。このふわふわの『ましゅまろ』も、頬が落ちそうなくらい甘くて美味しい!」

「ええ。ヤヨイさんが笑顔になってくれて何よりです。……僕も一生、あなたの言葉と人生に一番近くで『神社声援(応援)』を送り続けますからね」

「あ……佐久間君……っ。カフェでそんな甘い声で応援されたら、ジンジャーエールを飲む前に顔が熱くなっちゃうじゃない……っ」

2. 神棚へのお土産「みやびのいなり寿司」

カフェでひと息つき、すっかり身体が温まった二人は、境内を出て賑やかな門前参道へと足を進めた。 立ち寄ったのは、神田明神名物として名高い老舗寿司処『神田志乃多ごん/いなり寿司 みやび(門前店)』の店頭である。

「あら……っ! 甘辛くふっくら煮付けられた油揚げの香ばしい匂いが、参道いっぱいに漂っているわね……! 小ぶりで品のある『いなり寿司』、ひと目見ただけでお腹がキュウと鳴っちゃいそう」

「持ち帰り用に買いましょう。ヤヨイさんのご自宅での執筆のお供と、僕たちの夕食分に。ここのいなり寿司は、江戸っ子に愛されてきた極上の味わいですから」

佐久間はサッと財布を取り出すと、職人が丁寧に詰めた折箱のいなり寿司を購入し、大事そうにヤヨイの取材バッグの脇へと収めた。

「ふふ、ありがとう佐久間君。今夜はご利益たっぷりのいなり寿司をいただきながら、今日の取材ノートを整理するわね。……あ、でも待って、佐久間君。門前のあちらのお店から、とっても香ばしくて甘い湯気が立っているわ……!」

3. 天野屋の紙コップ甘酒と、冬の温もり

ヤヨイが吸い寄せられるように向かったのは、鳥居のすぐ脇に構える創業明治四年の老舗『天野屋(あまのや)』。 地下の天然土室(むろ)で作り出される伝統の糀(こうじ)甘酒の甘い香りが、冬の冷たい空気の中に白く温かな湯気となって立ち上っていた。

「いらっしゃい! 暖かい甘酒、紙コップでどうぞ!」

佐久間は紙コップに入った淹れたての熱々の甘酒を二つ受け取ると、一つを丁寧にヤヨイの手へと渡した。

「ヤヨイさん、火傷しないように気をつけてくださいね」

「ありがとう、佐久間君……。うふふ、はぁ〜っ……! 紙コップから伝わるこの温もりが、冷えた指先にじんわり染み渡っていくわ……。いただくわね。……んん〜っ! お砂糖を一切使っていないのに、米糀だけの自然で豊潤な甘みが口いっぱいに広がっていく……っ! なんて温かくて優しいお味なのかしら!」

「ええ、天野屋さんの甘酒は江戸時代から参拝客の疲れを癒やしてきた至高の甘酒ですからね。……ヤヨイさん、少し風が冷たくなってきました。こちらへ」

佐久間はそう言うと、自然な所作でヤヨイの風上に立ち、自身の大きな背中で冬の冷たい北風を遮った。そして、紙コップを持つヤヨイの細くかじかんだ手を、上から自身の大きな手でそっと包み込んだ。

「あ……佐久間君……っ?」

「手が少し冷えていますね。こうしていれば暖が取れます。……神田明神の『神社声援』も、みやびのいなり寿司も、天野屋さんの甘酒も……ヤヨイさんと一緒に味わうと、どれも万倍の温もりになって僕の心を満たしてくれます」

「佐久間君……っ。甘酒の湯気の向こうでそんなに優しい顔で見つめられたら、胸のドキドキで身体中が熱くなっちゃうじゃない……っ。丸眼鏡が甘酒の湯気と嬉しさで曇っちゃうわ」

「ふふ、曇ったら僕が何度でも拭いてあげますから。……さあ、甘酒が冷めないうちに、ゆっくり暖を取りながら二人で歩きましょう」

「ええ! あなたと一緒に味わう冬の神田明神、一生忘れられないくらい温かくて幸せだわ……!」

鳥居の脇に漂う甘酒のあたたかな湯気と、手渡された紙コップの温もり。 冬の神域で分け合った「神社声援」と甘酒の甘さは、二人の心と体をどこまでも優しく包み込み、決して冷めることのない愛の温もりとなって、静かに重なり合っていくのだった。

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