第六章:神田神社(表鬼門の大結界と、勝守に重ねる天下の誓い)
第1節:駿河台の風と、表鬼門を護る雙龍門の威容

初夏の陽光が、秋葉原のビルの群立を黄金色に染め上げていく午後。 かつて江戸城の北東——すなわち最も邪気が侵入しやすい「表鬼門」を護るべく、徳川家康公と天海僧正の手によってこの駿河台・外神田の地に遷座された江戸総鎮守・神田神社(神田明神)。
『東京十社めぐり』の第六弾取材として、チームケロのプロデューサー・佐久間学と、ライター・ヤヨイの2人は、重厚な鳥居をくぐり、豪華絢爛な『隨神門』の前に立ち尽くしていた。
「はぁ……っ! 佐久間君、見てちょうだい……! この隨神門が放つ、目を見張るような朱と金箔の美しさ……! 以前チームケロの6人で賑やかに巡った時とはまた違って、こうして二人で静かに門を仰ぎ見ると、肌を刺すような凛とした緊張感が込み上げてくるわ」
白地に細やかな朝顔模様があしらわれた凛としたワンピースを纏ったヤヨイが、丸眼鏡のの位置をそっと直し、胸の前で愛用の取材ノートを強く抱きしめた。
「ええ。神田明神は天平二年の創始以来、江戸の庶民から将軍家に至るまで深い信仰を集めてきました。そして何より……第4弾で僕たちが訪れた赤坂の日枝神社が江戸城の『裏鬼門(南西)』を護る要であるならば、この神田明神は江戸城の『表鬼門(北東)』を護る大結界の要です。徳川幕府が江戸三百年の泰平を築くために配置した、最強の守護陣地なのです」
木々模様の落ち着いたジャケット姿の佐久間が、ヤヨイの重いカメラバッグと資料巾着を、自然な所作でサッと片肩へ背負い直した。
「天海僧正の風水構想、そして日枝神社の山王祭と神田明神の神田祭が天下祭として隔年で交互に行われてきた歴史……。表と裏、光と陰が織りなす大結界の物語ですね。ヤヨイさん、参道の石畳を進みましょう。僕の左腕をしっかり掴んでいてください」
「ありがとう、佐久間君……っ!」
佐久間が差し出した力強い左腕に、ヤヨイは迷いなく細い手を重ねた。直に伝わる頼もしい体温。門をくぐり抜けると、そこには都心の喧騒を完全に遮断した、どこまでも気高く広大な神域が広がっていた。
第2節:将門公の勝運、神馬あかりちゃんと重なる想い
朱と黒の重厚な本殿で深く頭を下げ、江戸の平穏を祈願した後、二人は境内の一角にある神馬(しんめ)の繋ぎ場へと足を進めた。 そこにちょこんと佇んでいたのは、愛らしい芦毛のポニー・神幸号「あかりちゃん」だった。
「ふふ、あかりちゃん……っ! つぶらな瞳で見つめてくれて、なんてお利口で可愛らしいのかしら。表鬼門の歴史の重厚さに少し身が引き締まっていたけれど、この愛くるしい姿を見ていると、胸の奥がすうっとあたたかい優しさで満たされていくわね」
ヤヨイが丸眼鏡の奥の瞳を慈しむように細め、あかりちゃんにそっと手を振る。その微笑ましい横顔を、佐久間は愛おしそうに見つめていた。

「ええ、江戸の庶民に愛され続ける神田明神の象徴ですね。……そしてヤヨイさん、神田明神の三の宮にお祀りされているのは、平安時代に自らの義を貫き、江戸の地を守り抜いた武勇の神・平将門公(平将門命)です。慶長五年、徳川家康公は関ヶ原の戦いに臨む際、この神田明神で戦勝を祈願し、見事勝利を収めて天下統一を果たしました」
「平将門公の強いお力と、家康公の天下取りの勝運……。ただのパワースポットという言葉では括れない、日本の歴史を動かしてきた圧倒的なエネルギーを感じるわ」
二人は授与所へ足を運び、漆黒の地に鮮やかな金の刺繍が施された『勝守(かちまもり)』を授かった。
第3節:勝守を握りしめ、ふたりで誓う天下の絆

佐久間は授かったばかりの『勝守』を手に取ると、それをヤヨイの華奢な手のひらにそっと乗せた。そして、そのまま彼女の指先ごと、自身の大きな手でガチッと力強く包み込んだ。
「あ……佐久間君……っ」
肌から伝わる佐久間の剥き出しの熱い体温。ヤヨイの胸がドクンと大きく跳ね、丸眼鏡の奥の瞳が大きく揺れた。
「ヤヨイさん。家康公に勝利をもたらした将門公の強大な勝運のもとで、僕に誓わせてください。あなたが言葉を紡ぎ、世の中に想いを届ける道において、立ちふさがるどんな批判や困難、あらゆる悪縁も、僕がすべて陰の盾となって打ち破ります。僕たちの仕事も、二人で歩むこれからの未来も、どんな試練にも『勝ち続ける』強い絆にします。……僕の人生の主役は、一生ヤヨイさん、あなただけです」
「……っ、もう! 将門公の勝守を握り締めながら、そんな真っ直ぐで男前な顔をして誓ってくれるなんて……っ。胸が熱くなって、丸眼鏡が嬉しさで曇っちゃうじゃない。……あなたという最高のプロデューサーがいてくれるなら、私、どんな未来だって勝ち進んでいけるわ!」
夕暮れの風が境内を吹き抜け、重ね合わせた二人の手に優しく触れていく。
第4節:EDOCCOのあかりと、未来へ続く言葉のノート
参拝を終えた二人は、境内にある文化交流館「EDOCCO」のテラス席へと向かった。 日が落ち始めるにつれ、境内の社殿や隨神門が色鮮やかなひかりでライトアップされていく。古き良き江戸の建造物が、現代の幻想的な光の中に浮かび上がる様は、息をのむほど美しかった。
「見て、佐久間君……! 夜のライトアップで浮かび上がる社殿の姿、まるで江戸時代と現代が交錯しているみたいで綺麗ね……。江戸城の表鬼門を守る大結界、将門公の勝運、あかりちゃんの愛らしさ、そしてこの美しい光……神田明神のすべての魅力を、私のノートに溢れるほどの情熱で書き記していくわ」
「ええ。ヤヨイさんの紡ぐ文章なら、読者の心に一生残る素晴らしいコラムになります。僕が全力でサポートしますから」

佐久間は温かいお茶をヤヨイに手渡すと、並んでライトアップされた境内の夜景を見つめた。
「佐久間君。日枝神社の裏鬼門から、この神田明神の表鬼門へ……あなたと巡る『東京十社』の旅は、私の人生のノートを最高の色彩で染め上げてくれるわ。……次の『亀戸天神社』や『根津神社』へ向かう旅路も、ずっと私をエスコートしてね、私の生涯の主役さん!」
「もちろんです。仕事のパートナーとしても、一人の男としても、一生あなたの隣から離れません。どこまでも一緒に歩んでいきましょう」
神田の丘にそよぐ初夏の夜風と、あたたかな門のひかり。 徳川の大結界と平将門公の天下の勝運に守られた二人の絆は、巡る季節の言葉とともに、どんな試練にも勝ち勝る「確信の絆」となって、未来へとどこまでも強く結ばれていくのだった。

