東京福めぐり(高輪神社編)『江戸の残り香、未来のノート』

高輪神社、拝殿前、佐久間とやよい 長編(フィクション)
高輪神社、拝殿前、佐久間とやよい

第6話:高輪神社(高台の静寂と太子堂の彫刻、泉岳寺の風情からブルーボトルコーヒーへ紡ぐ福)

第一章:二月の日曜日——国道十五号の疾走感と、石段の先の静謐

まだ冬の鋭い寒さが残る二月の日曜日。朝の澄み切った青空から降り注ぐ陽光が、第一京浜(国道15号)を行き交う車列のガラスに反射して、銀色の光の粒となって煌めいていた。 都営浅草線と京急本線が交差する泉岳寺駅の出口から地上へ上がると、冷たく引き締まった空気が心地よく肌を刺す。『チームケロ』のプロデューサー・佐久間学とライター・ヤヨイの二人は、国道沿いに堂々と構える高輪神社の鳥居前に立っていた。

「はぁ……っ! 佐久間君、見てちょうだい! 第一京浜のこんな大通り沿いに、堂々とした鳥居が佇んでいるなんて! 泉岳寺駅からも、新しくできた高輪ゲートウェイ駅からもすぐ近くの便利な場所なのに、参道の奥へ進むにつれて空気がキリッと研ぎ澄まされていくわね!」

濃紺の冬着物に温かな道行コート、首元に白い絹のショールをふわりと巻いたヤヨイが、丸眼鏡の位置を指先で直しながら愛用の取材ノートを抱きしめて声を弾ませた。 木々模様のシックな厚手ジャケットを着こなした佐久間は、いつものように自然な動作でヤヨイの重い一眼レフカメラのバッグと巾着をサッと片肩へ背負い直す。

「ええ。高輪神社は室町時代の明応年間(1492〜1501年頃)に創建されたとされる格式ある古社です。かつてはこの高台の眼下に品川の海が広がり、東海道を行き交う旅人や江戸の出入り口である『高輪大木戸』を行き交う人々が道中安全を祈った要衝でした。さあヤヨイさん、石段を上がりましょう」

二人は参道を進み、高台へと続く石段を一歩ずつ踏みしめて上がっていく。 石段を上がりきり、境内の敷石へと足を踏み入れた瞬間――背後を走っていた国道の車の走行音が、まるで分厚い幕で遮られたかのようにふっと遠のいた。

「あら……っ! 不思議ね、佐久間君! 大通りのすぐ脇の石段を上がっただけなのに、車の音がすっと消えて、こんなにも深い静けさに包まれるなんて……! 二月の日曜日の澄んだ朝の気も相まって、都会の真ん中にいることを忘れてしまいそうだわ!」

「高台という地形が自然の防音壁となり、神域の静謐を守っているのです。この“動と静”の鮮やかなコントラストこそ、高輪神社の持つ大きな魅力の一つですよ」

佐久間は満足そうに目を細めると、力強い左腕を差し出した。ヤヨイはその腕に甘えるようにそっと手を重ね、静まり返った境内へ歩みを進めたのだった。

第二章:境内の『太子堂』と、江戸の石工が残した魂の彫刻

二人は端正な佇まいの拝殿前へ進み、二拝二拍手一拝の丁寧な祈りを捧げた。 主祭神である宇迦之御魂神(稲荷大神)をはじめ、誉田別尊(八幡大神)、そして道を切り拓く猿田彦命に手を合わせる。参拝を終えたヤヨイの視線は、境内の一角に厳かに佇む境内社へと引き寄せられた。

「佐久間君、あちらのお社は……? 鳥居の奥に『太子宮』という扁額が掲げられているわね」

「あれは『太子堂(太子宮)』です。明暦年間に聖徳太子の十六歳像をお祀りしたのが始まりと伝えられています。聖徳太子は日本における建築・土木・工匠の祖神と仰がれており、江戸時代には大工講や『江戸石方惣中』と呼ばれる石工組合の人々から熱烈な信仰を集めました」

「聖徳太子様と、大工さんや石工職人さんたちの信仰……! それに見てちょうだい、太子堂の周りを囲むこの石門と石塀……なんて見事な浮き彫り彫刻なのかしら!」

ヤヨイは丸眼鏡の奥の瞳を輝かせ、文政年間の銘が刻まれた石門に歩み寄った。 そこには、江戸の職人たちがノミの一撃一撃に魂を込めて彫り上げた龍や波、瑞雲の細工が、風雨に耐え抜いた威厳とともにくっきりと残されていた。

「弘化二年の青山火事で当時の社殿の多くは焼失してしまいましたが、この精緻な石門や石塀、そして力石などの石造物は奇跡的に焼け残りました。何百年もの時を超えて職人たちの技術と誇りを現代に伝えているのです」

「火災や時代の荒波を乗り越えて残った、職人さんたちの魂の結晶……。言葉を紡ぐライターとしても、背筋がすっと伸びるような感動を覚えるわね」

ヤヨイは息を呑みながら、石肌の質感と歴史の重みを丹念に取材ノートへと書き留めていった。

第三章:二月の木漏れ日と、揺るぎない土台の誓い

太子堂の拝観を終えた二人は、冬の淡い木漏れ日が揺れる境内の木陰へ。 冷たい風が頬をかすめると、ヤヨイは思わず首元のショールをきゅっと手で押さえた。その様子を見た佐久間は、コートのポケットから授与所で大切に拝受していたお守りを取り出した。

佐久間はそのお守りをヤヨイの細い手のひらにそっと乗せると、冷えた彼女の指先ごと、自身の大きな手でガチッと力強く包み込んだ。

「あ……佐久間君……っ?」

佐久間の手の平から伝わる確かな温もりが、冷え切っていたヤヨイの手先から身体の芯へとじんわりと広がっていく。

「ヤヨイさん。何百年もの風雨や大火に耐え抜いて今も凛と立ち続けるあの石門のように……僕があなたの言葉と表現を、何があっても決して揺らぐことのない強固な土台となって支え続けます。聖徳太子が説いた『和を以て貴しとなす』の調和と、石工たちの妥協なき職人魂を胸に、あなたが紡ぐ文章を僕が最高のプロデュースで世界へ咲かせ続けます」

佐久間は真摯な光を宿した瞳で、ヤヨイを真っ直ぐに見つめた。

「僕の人生の主役は、一生ヤヨイさん、あなただけです。僕の隣で、ずっと最高の言葉を紡ぎ続けてください」

「……っ、もう! 二月の澄んだ空気の中で、そんな真っ直ぐで男前な瞳で見つめながら『揺るぎない土台になる』なんて言ってくれるなんて……っ。胸が熱くなって、丸眼鏡が嬉しさで曇っちゃうじゃない」

ヤヨイは潤んだ瞳を細め、佐久間の大きな手を両手でギュッと握り返した。

「あなたという揺るぎない支えがいてくれるなら、私、どんな時代だって自信を持って言葉を紡いでいけるわ!」

第四章:泉岳寺の門前風情を抜け、ブルーボトルコーヒーへ

高輪神社での取材と参拝を終えた二人は、石段を降りて再び旧東海道の風情が残る道へ。 歩いてわずか数分の距離にある曹洞宗の名刹『泉岳寺』の前を通りかかる。山門の奥には、赤穂義士(四十七士)の眠る墓所を訪れる人々の静かな列が見えていた。

「佐久間君、ここがかの有名な泉岳寺様ね……! 赤穂四十七士の忠義の歴史が息づく場所……門前に立つだけでも、何とも言えない厳かな空気が漂ってくるわ」

「ええ。浅野内匠頭公と赤穂浪士が眠る、日本史の大きな転換点となった名刹です。ヤヨイさん、この泉岳寺は『東京福めぐり』の連載とはまた別に、将来的に単独の大型企画として、歴史の深層から境内・墓所までじっくりと取材と執筆を行いましょう」

「まあっ! 泉岳寺様の単独特集企画……! 赤穂義士の歴史ロマンを深く掘り下げる取材ができるなんて、今から胸が高鳴っちゃうわね!」

二人は将来の取材企画への期待を膨らませながら、さらに歩みを進めて最新の近未来都市エリア——JR高輪ゲートウェイ駅直結の商業施設『NEWoMan高輪』へと向かった。

洗練されたガラス張りのモダンな空間に足を踏み入れ、二人は大人気の『ブルーボトルコーヒー』へ。 バリスタが一杯ずつ丁寧にハンドドリップしたスペシャリティコーヒーと、焼きたての温かいワッフルをテーブルに並べる。

「はぁ〜っ……! 澄んだフルーティーな香りのドリップコーヒーと、バターが香るサクサクのワッフル……! 高輪神社の静けさと泉岳寺の歴史を感じたあとに、こんな最先端の空間でいただく珈琲は格別ね、佐久間君!」

「ええ。室町から江戸の歴史を歩いたあとに、未来的な空間で思考を巡らせる……最高のリフレッシュになりますね」

佐久間はコーヒーカップを傾けると、手帳を開いて穏やかに微笑んだ。

「さて、ヤヨイさん。浅草神社、鳥越神社、福徳神社、波除神社、烏森神社、そして今日の高輪神社と巡り、全八社のうち六社まで完走しました。いよいよ残すところあと二社です」

「ええ! 次の第7話は、どこへ向かうのかしら?」

「第7話の舞台は……品川区戸越に鎮座する【戸越八幡神社(とごしはちまんじんじゃ)】です」

「戸越八幡神社様……! 戸越銀座商店街の近くにある、緑豊かで温かい雰囲気のお社ね!」

「そうです。大永年間に創建され、『戸越』という地名の発祥ともなった歴史ある八幡様です。境内には心地よいソファが置かれていたり、地域の人々に深く愛される憩いの空間が広がっています。次回は下町の活気と八幡様の福を、たっぷりと紐解いていきましょう」

「戸越銀座の風情と八幡様の温もり……! 想像するだけで、また丸眼鏡の奥がワクワクしてきちゃうわ! 次の『戸越八幡神社』の取材も、絶対に私の隣から離れないでね、佐久間君!」

「もちろんです。一生、あなたの隣で伴走し続けます」

NEWoMan高輪のガラス越しに広がる近代的な街並みと、テーブルを満たす香り高い珈琲の湯気。 高輪神社の石門が伝えた揺るぎない魂と聖徳太子の知恵に見守られた二人の絆は、第7話『戸越八幡神社』への期待を胸に、どこまでも深く、そして甘く未来へと続いていくのだった。

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