東京福めぐり(蛇窪神社編)『江戸の残り香、未来のノート』

蛇窪神社、白蛇弁財天、佐久間とやよい 長編(フィクション)
蛇窪神社、白蛇弁財天、佐久間とやよい

第8話:蛇窪神社(白蛇様の戻り道と銭回し・銭洗い、開運八社巡礼に結ぶ『大願成就』の福)

第一章:戸越公園駅から「白蛇様の戻り道」、そして蛇窪の神域へ

九月下旬。秋晴れの澄み渡る青空から注ぐ柔らかな陽光が、品川・中延の住宅街を黄金色に包み込んでいた。 東急大井町線の戸越公園駅を降りた『チームケロ』のプロデューサー・佐久間学とライター・ヤヨイの二人は、駅前の通りを抜け、穏やかな街並みへと歩みを進めていた。

「はぁ……っ! 佐久間君、見てちょうだい! 戸越公園駅から歩いてすぐのところに、こんなに風情あるお堂が佇んでいるのね!」

白地に淡い藤色のグラデーションが施された秋の単衣着物に、萩の花をあしらった透け感のある羽織を合わせたヤヨイが、丸眼鏡の位置を指先で直しながら、愛用の取材ノートを抱きしめて声を弾ませた。 二人の前にあるのは、地域の人々に大切に守られてきた『大原不動尊』である。木々模様のシックなジャケットを着こなした佐久間は、いつものように自然な動作でヤヨイの重いカメラバッグと巾着をサッと片肩へ背負い直す。

「ええ。ここはかつて白蛇様が元の住処へと帰られる際、一休みされたと伝わるゆかりの場所です。……ヤヨイさん、今日僕たちが歩いているこの道こそが、古くから伝わる『白蛇様の戻り道』ですよ」

佐久間は穏やかな低音で、この地に息づく伝承を語り始めた。

「鎌倉時代の正慶二年(1333年)、武蔵国一帯が大干ばつに見舞われた際、厳正寺の僧が蛇窪の古池の畔で雨乞いの祈祷を行い、大雨を降らせて人々を飢饉から救ったのが蛇窪神社の起源です。その後、社殿の横の洗い場に美しい白蛇が棲みつきましたが、土地の開発によって現在の戸越公園(旧細川家下屋敷跡)の池へと移り住みました。しかし白蛇は元の蛇窪の地を恋しがり、村人の夢枕に立って『元の住処へ戻りたい』と訴えたのです。村人たちは白蛇を迎えるために社殿を建立し、白蛇様はこの道を辿って蛇窪の宮へと戻られました」

「白蛇様が元の住処を恋しがって歩いた戻り道……! その足跡をこうして二人で辿りながらお宮へ向かうなんて、まるで歴史の絵巻物を一歩ずつめくっているようなロマンを感じるわね!」

「ええ。主祭神の天照大御神、そして白蛇辨財天社、蛇窪龍神社がお祀りされている、都内屈指の金運・大願成就のパワースポットです。さあヤヨイさん、鳥居をくぐりましょう」

大原不動尊に手を合わせた二人は、白蛇の戻り道を進み、白い幟旗がはためく蛇窪神社の鳥居前に辿り着いた。佐久間が力強く左腕を差し出すと、ヤヨイはその腕に甘えるようにそっと手を重ね、活気と神気あふれる境内へと足を踏み入れたのだった。

第二章:法密稲荷の重軽狐石から、白蛇様エリアの『銭回し・銭洗い』へ

二人はまず端正な本殿へ進み、主祭神である天照大御神に二拝二拍手一拝の丁寧な祈りを捧げた。 続いて参道の右手に鎮座する『法密稲荷社(ほうみついなりしゃ)』へ。百本を超える朱色の奉納提灯と、愛らしい表情の狐の石像が二人を迎える。

「あら……! なんて愛らしいお狐様なのかしら! 佐久間君、あちらには『願掛け水掛宝珠』と『重軽狐石』があるわね!」

「ええ。水掛宝珠に柄杓で清らかな水を注いで心願成就を祈り、重軽狐石を持ち上げて願いの成就を占う場所です。ヤヨイさん、持ち上げてみてください」

ヤヨイは真剣な面持ちで石の前に立ち、願いを込めながら両手で狐石を持ち上げた。

「まあっ……! 見た目よりもずっとふわりと軽く持ち上がったわ! 丸眼鏡の奥が驚きでまん丸になっちゃう!」

「素晴らしい。あなたの願いがスムーズに叶う吉兆ですね」

二人は微笑み合い、続いて境内奥の白蛇様エリアへ。彫刻家・吉村サカオ氏制作の夫婦白蛇像『撫で白蛇』の滑らかな白い石肌を優しく撫で、気力復活と心身の清浄を祈る。さらに、七匹の白蛇と全長八メートルの雄大な龍神像が祀られた『蛇窪龍神社』を参拝した。

「七匹の白蛇様が八匹目で龍神様になる……『巳が龍(身が立つ)』という立身出世の御神徳、ものすごい迫力ね!」

「ええ。そしてヤヨイさん、いよいよ蛇窪神社名物の『銭回し・銭洗い』を行いましょう」

二人は授与所で清らかな『白蛇種銭』を拝受し、石臼が据えられた銭回し所へ向かった。案内板に記された黄金の作法に沿って進めていく。

「金杯に白蛇種銭を乗せ、石臼の上に置いて……『社会とお金が良い方向に回りますように』と願いを込めながら、時計回りにゆっくり三回回します」

「時計回りに、一回……二回……三回……! 佐久間君と一緒に回していると、私たちの仕事も未来も、世界全体が良い方向へぐるぐると回っていく実感が湧いてくるわね!」

続いて二人は、かつて白蛇が棲んでいた井戸水が湧き出る『白蛇清水』の銭洗い所へ。 竹ザルの中に白蛇種銭と、自分たちのお財布から取り出した大切なお札を重ねて置く。柄杓で汲み上げた清涼な清水を静かに注ぎかけると、水しぶきが午後の陽光を浴びてキラキラと輝いた。

「清めた種銭と現金をザルに乗せたまま、あちらの白蛇辨財天社へ参拝します」

二人は水滴を宿したザルを胸の前に掲げ、白蛇辨財天社の御宝前へ。美と財運、清浄の神である市杵島姫神に深く頭を下げ、心を込めて祈りを捧げた。参拝を終えたヤヨイは、清められた白蛇種銭を大切にお財布の奥へと収めた。

「白蛇清水でお清めした種銭をお財布に納めると、心の中の迷いや澱みがすっきりと洗い流されて、清らかな福で満たされたような気持ちになるわね」

第三章:八社大願成就の誓い——『白蛇辨財天御守』と永遠の伴走宣言

参拝を終えた二人は、木漏れ日が優しく揺れる境内の木陰へ。 佐久間はバッグの中から、大切に携えてきた『東京福めぐり開運八社折丁』を取り出し、ベンチの上で静かに広げた。

「浅草神社、鳥越神社、福徳神社、波除神社、烏森神社、高輪神社、戸越八幡神社……そして、今日の蛇窪神社」

折丁の上には、都営浅草線沿線を中心に巡り歩いてきた八社すべての鮮やかな朱印と墨書が、一つの壮大な曼荼羅のように美しく並んでいた。

「はぁ……っ! 浅草の三社様から始まって、鳥越様の重厚な神輿、福徳様の芽吹きの森、波除様の厄除天井獅子、烏森様の心願色みくじ、高輪様の太子堂の石門、戸越八幡様の夢叶うさぎ……そして今日の蛇窪様の白蛇様と龍神様。八社すべての福が、今こうして見事に結ばれたのね……!」

ヤヨイが感極まった面持ちで折丁を見つめていると、佐久間はジャケットの内ポケットから、授与所で拝受していた純白の『白蛇辨財天御守』を取り出した。

佐久間はそのお守りをヤヨイの細く華奢な手のひらにそっと乗せると、そのまま彼女の指先ごと、自身の大きな手でガチッと力強く包み込んだ。

「あ……佐久間君……っ?」

佐久間の大きな手のひらから伝わる熱い温度が、ヤヨイの手先から胸の奥、そして全身へと広がっていく。佐久間は真摯な光を宿した瞳で、ヤヨイを真っ直ぐに見つめた。

「ヤヨイさん。七匹の白蛇が脱皮を繰り返して成長し、八匹目で天へと昇る龍神となるように……あなたが紡ぐ言葉という類まれな才能は、この八社を巡る旅路を通じて、さらに強く、美しく羽ばたきました。あなたの紡ぐ文章には、人々の心を救い、世界を温かく照らす本物の力があります」

佐久間は握りしめた手にさらに力を込め、生涯の決意を言葉に乗せた。

「どんなに時代が移り変わろうと、どんな荒波が訪れようと、僕があなたの言葉を一番近くで支える揺るぎない土台となり、最高の舞台へと押し上げ続けるプロデューサーであり続けます。そして……仕事の相棒としてだけでなく、一人の男として、あなたの人生のすべてを生涯命を懸けて守り抜きます。僕の人生の主役は、一生ヤヨイさん、あなただけです」

「……っ、もう! 八社の福が満ちる最高の秋晴れの下で、そんな真っ直ぐで男前な瞳で見つめながら生涯の誓いをしてくれるなんて……っ。どこまでもズルいのよ。胸が熱くなって、丸眼鏡が嬉しさで曇っちゃうじゃない」

ヤヨイは溢れる涙をぬぐうこともせず、佐久間の大きな手を両手でギュッと握り返した。

「あなたという最高のプロデューサーが隣で道を開いてくれたからこそ、私はここまで一歩も立ち止まらずに歩んでこられたの。私の紡ぐすべての言葉も、私の未来も、私の人生のすべてを……あなたにずっと預けるわ!」

第四章:八社満願の祝杯と、未来へ続く新たな旅立ち

蛇窪神社を後にした二人は、中延の駅前にある落ち着いたカフェへ。 八社満願を祝して運ばれてきた温かい紅茶と特製シフォンケーキを前に、二人は東京福めぐりの折丁を囲んだ。

「浅草から始まって蛇窪様まで、都営浅草線沿線を巡る『東京福めぐり』の旅……本当に素晴らしい取材と巡礼になったわね、佐久間君」

「ええ。江戸の歴史の残り香と、現代を生きる人々の信仰が見事に調和した、最高の特集記事が完成しますね。……ですがヤヨイさん、僕たちの旅はこれで終わりではありません」

佐久間は手帳を開き、穏やかに微笑んだ。

「東京には、そして日本中には、まだまだ僕たちが掘り起こし、言葉と映像で伝えるべき素晴らしい神社仏閣や歴史の物語が無数に眠っています。築地本願寺や東本願寺、そして泉岳寺の単独特集をはじめ、僕たちの旅ノートはここからさらに新しく、広く展開していきます」

「ええ! あなたが隣にいてくれるなら、私、どこへだって取材に行って、最高の物語を紡いでみせるわ!」

窓の外には、品川の街を優しく包み込む夕暮れの茜空が広がっていた。 白蛇様の清浄と龍神様の大願成就の福に見守られ、開運八社巡礼を満願成就した二人の絆は、これからはじまる無限の未来へ向かって、どこまでも甘く、そして永久に結ばれていくのだった。

タイトルとURLをコピーしました