参拝を終えたあと、ちーこは社務を預かる者から、熊野の牛王宝印について話を聞いた。
神への誓い。
嘘偽りのない約束。
その重さを聞きながら、ちーこの瞳は次第に真剣になっていった。
境内を出たあと、彼女は恒一郎の横を歩きながら尋ねた。
「恒一郎さま」
「なんだ」
「神さまの前で交わす約束は、それほど重いものなのですか」
「軽々しく口にするものではないだろうな」
「破れば」
「神への誓いを破ったことになる」
「では」
ちーこは足を止めた。
恒一郎も止まる。
「なんだ」
ちーこは少し悪戯っぽく笑った。
「わたしを一生大切にすると、ここで誓ってくださいませ」
恒一郎は無言になった。
「どうなさいました」
「なぜ話がそこへ行く」
「ちょうどよいではありませんか」
「まだ祝言も挙げていない」
「だから今のうちに聞いておくのです」
「今のうちとは何だ」
「祝言を挙げてから、やっぱり気が変わったと言われても困りますもの」
「誰がそんなことを言う」
「では誓えますね」
恒一郎は頭を押さえた。
ちょうど通りかかった町人が足を緩めた。
「何だ、喧嘩か」
「違う。三ツ葉屋のお嬢さんが蒼井の若旦那に何か言わせようとしてる」
「ああ、いつものことか」
いつの間にか見物人が増えている。
恒一郎が低い声で言った。
「ちーこ」
「はい」
「場所を考えろ」
「熊野さまの前だから申し上げているのです」
「そういう意味ではない」
ちーこはにっこり笑った。
「では、いつか聞かせていただきます」
それだけ言うと、先に歩き出した。
恒一郎はその後ろ姿を見ながら、苦笑した。
「勝手な娘だ」だが、その顔は少し嬉しそうだった。

